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2021/12/14
今注目の投資戦略
プライベート・エクイティ(PE)・ファンドの実態

<プライベート・エクイティ(PE)・ファンドの実態>

米国名門イェール大学の基金運用では、高いリターン(投資収益)を求めて、伝統的な株式・債券などの資産を減らし、ヘッジ・ファンドやプライベート・エクイティ(PE、未公開株)などのオルタナティブ(代替)資産を拡大している。ベンチャー・キャピタル(VC)やレバレッジ・バイアウト・ファンドへの投資を増やし、過去30年間に基金全体で年率13.6%のリターンを上げ、2021年6月末時点の資産運用額の合計は約423億ドルに達した。

イェール大学基金の資産配分計画(2021年会計年度)

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世界的な低金利環境を背景に、ヘッジ・ファンドも運用手法の一環として高いリターンに引き寄せられてプライベート・エクイティ市場へ投資しており、存在感を増している。ゴールドマン・サックスによると、2021年上半期にヘッジ・ファンドは約770件の取引を行い、2010年同期の約100件から7倍強増加したという。

未公開株へ投資するPEファンドは、積極的に企業統治に参加し、業績・株価を伸ばして、アルファ(超過収益)を狙う。ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)などテーマ型投資にも関与し、国際的な影響力を持つ。海外では、カーライル、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)、ブラックストーンなどが有名だ。

<アルファを狙う手法>

広義のPEファンドには、ベンチャー・キャピタル(VC)、バイアウト・ファンド、事業再生ファンドが含まれる。いずれもキャピタルゲインの獲得を目的としており、出資を引き受けた企業に対して、様々な事業改革提案に加え、M&A(買収・合併)やIPO(新規株式公開)などによる資金回収戦略(イグジット)を目指す。イグジットを前提に介入の意思決定を行っているため、介入時すでにM&AやIPOによるイグジット戦略を具体的に想定している場合も多い。

VCは、創業したばかりのベンチャー企業へ投資することから、失敗するリスクが高く、投資資金を回収できない可能性がある。複数企業の株式を少しずつ保有する分散投資が採用されるのが一般的だ。非常にハイリスクである半面、IPOを行った場合のリターンは数十倍から数百倍にも及び、ハイリターンでもある。最近は、IPOに比べて期待収益は比較的少ないものの、高確率でイグジットを達成できるM&Aによる資金回収手段を図るVCが増加中だ。

ジャーナル・オブ・オルタナティブ・インベストメンツ誌によると、ベンチャーキャピタリストは、ベンチャー企業との契約交渉により、通常の普通株式よりも高いリターンを得るため、追加出資権を持つ優先株式を受けることができる。

バイアウト・ファンドは、ある程度の段階まで事業が軌道に乗り、十分なキャッシュフローを生み出している企業を投資対象とする。株式の過半数以上を取得して経営権を確保し、キャッシュフロー改善による企業価値向上を図る。VCと比較するとミドルリスク・ミドルリターンであり、事業提案などを通じて、経営に関与する点が特徴だ。

なおバイアウト・ファンドが株式を取得する際は、LBO(レバレッジ・バイアウト)、MBO(マネジメント・バイアウト)、MBI(マネジメント・バイイン)などのM&A手法が活用されることが多い。

事業再生ファンドは、経営不振に陥っている企業へ投資する。事業再生は容易ではなく、投資には大きなリスクを伴うものの、株式を安く買収するため企業価値向上により大きな回収資金・キャピタルゲインの獲得が期待できる。ただ運営には専門知識が必要だ。

<PEファンドを通じた業界再編は生産性向上にも寄与>

PEファンドの役割に関しては、業界再編による生産性の向上などを図り、経済・市場に大きな変化をもたらすとの評価がある。日本でも1990年代後半から2000年代初めの金融危機の際、金融機関の不良債権処理を促したのも、こうしたファンドからの提案・助言などを踏まえた事業改革や構造改革が背景となった。

日本銀行金融市場局の鷲見和昭氏は、202012月11日に発表した「わが国におけるプライベート・エクイティ・ファンドの可能性―アイデアとコミットメントのあるファイナンスへの期待」と題する論文の中で、「PEファンドを通じた企業再編は、総じて、従業員数を削減することなく、売上高を増加させる形で、従業員1人当たりの付加価値の増加が期待できる」と分析し、日本経済の生産性向上にも資するとの見解を示した。

その上で、①PEファンドがもたらしうる経済メリットに対する認知度向上やデータ分析の蓄積②機関投資家によるPEファンドへの投資拡大③事業再編にかかるプロ人材の確保・育成に取り組んでいくことが必要と指摘した。

国内企業は、人口減少の逆風にさらされる中、グローバル化やデジタル化、ポストコロナ時代の経済構造変化に適応することが求められている。また経営者の高齢化が顕著に進む中で、多くの企業で事業承継が喫緊の課題であり、企業再編が広範に進む可能性が高まっている。今後、事業改革のアイデアとコミットメントを有する金融の役割が一層重要になり、PEファンドに注目が集まると見込んでいる。

参照:

Yale Investments Office
Goldman Sachs says hedge funds are increasingly trying to compete with VCs in private deals - Money Profit Report
Goldman says hedge funds like Tiger Global are competing more with VCs (cnbc.com)
(論文)わが国におけるプライベート・エクイティ・ファンドの可能性―アイデアとコミットメントのあるファイナンスへの期待― : 日本銀行 Bank of Japan (boj.or.jp)

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