<適応と進化を続けるヘッジ・ファンド業界>
金融業界ではフィンテックと呼ばれる金融サービスと情報技術が融合した革新が続いている。
1990年代までは、政府・中央銀行など公官庁の統計・データは紙で公表され、金融通信社の記者は携帯電話で編集部に数値を伝え、速報を流していた。しかしその後、2000年代に入り、金融通信社が報道する統計ヘッドラインの数値を受けて、大手金融機関が金融商品を自動売買できるシステムが構築された。例えば、主要経済指標の1つである機械受注が市場予想よりも増加すれば、機械株を買い、減少すれば売りを出すといった自動売買が始まった。あるいは、消費者物価指数(CPI)が上昇すれば、短期債に売り(短期金利は上昇)、通貨には買いが入り、逆にCPIが低下すれば、短期債に買い(短期金利は低下)、通貨は売られるという仕組みだ。
ここで記者・エディターが数値や入力を間違って、本当はCPIマイナス0.2%をプラス0.2%と報じてしまうと、誤って短期債が売られ、通貨に買いが入ってしまう。誤った数値に基づいて、膨大な量の自動取引が成立した場合、巨額に上る損害賠償の責任をだれが負うのかという事態に至る。人間は、間違いを犯す生き物だ。
このため現在では政府・中央銀行など公官庁は統計・データをホームページに自動公表し、そのまま自動で金融通信社の画面端末に数値が反映され、その速報を受けて、大手金融機関で自動売買が行われる仕組みになっている。そこに人間は介在しなくなり、巨大なコンピューター・システムが粛々と取引を行う金融の世界だ――。
<技術革新による広範で複雑なパラダイムシフト>
こうした潮流を背景に、ヘッジ・ファンド業界でも、経済指標、株式、債券、通貨、商品、暗号資産など様々な取引や資産運用において、高度なコンピューターやIT技術による自動プログラム投資が活発化した。アルゴリズムによるシステマティック取引を駆使したクオンツ投資が隆盛となった。
AI(人工知能)導入によるディープラーニング(深層学習)機能を使い、市場や顧客など膨大なマクロ・ミクロのデータを大量処理・解析し、テクニカル分析、デリバティブ(金融派生商品)・裁定取引、インターネット取引などを活用し、安定的な収益を確保する運用モデルが普及した。
特に情報・報道に反応する短期売買は、ミリ(1000分の1)秒単位で注文を出すハイ・フリークエンシー・トレーディング(超高速・高頻度取引)になっている。
エンジニア、データ・サイエンティスト、プログラマーなどが採用され、理数計算・統計に基づくアプローチにより、取引の効率化・自動化が加速した。
(出所:くにうみAI証券作成)
半面、システム障害や誤発注などにより、フラッシュクラッシュ(一瞬のうちに急落・急騰する相場の乱高下)を引き起こすため、システムの開発・更新を含め、リスク管理やコスト管理がより重要になっている。
<クオンタメンタル(クオンツ+ファンダメンタル)投資手法の進展>
一方、AIなど機械学習によるパターンを認識して、投資行動に応用する研究も進んでいる。従来型のアナリスト、エコノミスト、ストラテジスト、運用担当者など、豊富な経験・勘を有する専門家が、企業業績・産業・地域、金融・財政政策、市場、経済・景気動向、政治情勢などを調査・分析して投資判断を下すファンダメンタル投資を基に、市場環境などへ対応する行動パターンの適応性を加える、クオンタメンタル(クオンツ+ファンダメンタル)投資手法が進展している。
こうした異なる意思決定プロセスを融合させ、ハイブリッドの資産運用手法により、市場動向にかかわらず、アブソルート・リターン(絶対収益)を追求し、投資元本の拡大を目指す動きが広がっている。
技術革新による広範で複雑なパラダイムシフトが起きる中、ヘッジ・ファンド業界においても、環境の変化に対応し、素早く戦略と資金配分を変更する適応能力が生存確率を高める道となっている。
参考文献:
最新のヘッジファンドの手法は「クオンタメンタル」 | Bloomberg | ブルームバーグ
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