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2022/09/28
今注目の投資戦略
マルチ戦略ファンドへの投資―合理性と優位性―

マルチ戦略ファンドへの投資ー合理性と優位性ー

「卵はひとつのカゴに盛るな」――。卵をひとつのカゴに盛ると、そのカゴを落とした場合に、全部の卵が割れてしまうかもしれないが、複数のカゴに分けて卵を盛っておけば、そのうちのひとつのカゴを落としカゴの卵が割れて駄目になっても、他のカゴの卵は影響を受けずにすむという格言だ。

ヘッジ・ファンド業界では近年、規模が大きく、分散投資に長け、リスク管理に優れたマルチ戦略ファンドへの投資が合理的であり、その優位性に脚光が当たっている。

マルチ戦略ファンドは、世界中の国・地域の株式、債券、為替、商品、指数など広範な投資先を対象に、ファンダメンタル株式ロング/ショート、グローバル・マクロ、イベント・ドリブン、リラティブ・バリュー、クオンツ、クレジット、アービトラージ、ボラティリティー・トレーディングといった様々な運用戦略を柔軟に組み合わせて安定的なパフォーマンスを目指す手法だ。

新型コロナ感染症やロシア・ウクライナ情勢などを背景にしたインフレ高進を抑制するため、主要国の金融・財政政策が、超緩和局面から引き締め局面へと転換し、金融市場や経済への影響が懸念される中、マルチ戦略ファンドは、多種多様な戦略を切り替え、昨年、良好なリターン(投資収益)を生み出してきた。今年も、様々なマクロ要因が交錯し、高いボラティリティーの環境下であっても、マルチ戦略ファンドは、比較的、好調に推移している。

ヘッジ・ファンド業界への資金流出入動向.PNG

<規模による効果>

マルチ戦略ファンドは、資本の集積、つまり運用残高の拡大と効率化に伴い、時間の経過とともに好リターンとなり、投資家の長期的な利益に一致するとみられている。

規模を背景に、高い報酬は若くて有能な人材を惹きつけ、適切な戦略がアルファ(超過収益)を生み出し、強固なパフォーマンスにつながる。最近は、人工知能(AI)などを駆使した機械学習によるシステマティック・トレーディングが発達し、投資決定に大幅に貢献している。

一方、新規ファンドの立ち上げのための資金調達は、最大手以外にとって一段と困難になりつつある。このため大規模ファンドと小規模ファンドの二極化が進み、大規模ファンドは迅速に資本を調達してアルファを達成し、小規模ファンドを吸収するか、閉鎖に追い込む傾向がある。

もっとも少数の大規模ファンドへの資金・人材の集中は、同じような投資手法、ポートフォリオ構築、リスク管理になりやすく、外的ショックを受けて、市場が急変した場合、保有銘柄の流動性が圧迫され、レバレッジ解除が広がり、急激に多大な損失を被るリスクがある。2008年の世界的な金融危機時には、市場の強い圧力により、大規模な売却が発生し、ファンドの強制償還や市場の崩壊につながった。

<分散投資>

マルチ戦略ファンドは、多種多様な戦略を採用し、分散投資を行うため、好機をとらえた最適な資本配分を追求することができる。特定の単一戦略に基づくファンドに比べ、柔軟性が高く、株式や債券などの伝統的な資産クラスへの相関を抑え、市場低迷の影響を緩和することが可能だ。

例えば金融市場で株式・債券相場が同時に下落する局面では、先物のショート・ポジション(空売り)だけでなく、プット・オプション(一定期間内に契約価格で売る権利)、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)、金利スワップ(固定金利と変動金利の交換)などデリバティブ(金融派生商品)などを活用することで利益を上げることも可能だ。

<リスク管理>

市場の混乱期には損失を抑制するためのリスク管理が重要となる。最初は迅速にリスクを削減することが、市場の流動性枯渇によるストレスに耐え、反発時に取引に向かう可能性を高める。チーム・人員・ポジションなどを素早くローテーションする冷酷さが必要となる。保守的なリスク管理体制を備え、投資過程で過度に集中した金融商品を回避することが、リスク低減につながる。

またコスト・パス・スルーといった運用報酬・実績報酬など一定コストを投資家へ転嫁する構造は、運用担当者にも、リスクを厳格に管理し、支払いを低く抑えるよう促す。

<合理性と優位性を判断し選択>

2022年に入り、持続的な物価上昇を抑制しようとする主要国中央銀行の積極的な利上げにより、市場では明確な局面変化が起こっている。この結果、株式と債券の両方の資産が同時に売却され、ハイテク・成長株や暗号資産(仮想通貨)などの分野が打撃を受けた。

当面は、ポートフォリオ構築において、潜在的な利益を損なうことなくボラティリティー上昇に備えるため、マルチ戦略ファンドを中心に保有することが適切だろう。インフレ、景気後退懸念、エネルギー危機、地政学的緊張などは、少なくとも今後数か月間は不安定な相場が続くことを示唆している。

マルチ戦略ファンドは、様々な戦略を採用し、広範な金融商品へ投資し、運用戦略の配分も多種多様だ。投資家は、リターン目標を達成し、リスクを最小限に抑制するため、主要な違いを吟味し、どのファンドが最適かを判断し選択する必要がある。

参考文献:
Net inflows return to hedge funds in February - eVestment
Hedge fund industry ends 2021 at $3.63T, highest AUM level on record - eVestment


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