"2021年に最も利益を出したヘッジ・ファンド"、ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド・マネジメント(以下、TCIファンド・マネジメント)は、アクティビスト(物言う株主)として知られている英国のヘッジ・ファンドである。
ロンドンを拠点に2003年に資産家のクリストファー・ホーンが創業したヘッジ・ファンドで、元妻の運営する英国最大級の慈善団体、ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド財団がその名前の由来であり、ファンドの利益から寄付を続けたことでホーンは英国王室からサーの称号を与えられた。
LCHインベストメンツがまとめたヘッジ・ファンド利益ランキングでは、2019年と2021年に1位となった。2021年の利益は手数料を差し引いて、約95億米ドルで、2位に10億米ドル以上の差をつけている。これまでの運用成績は、2008年のリーマン・ショック時に大幅なマイナス運用だった以外は全てプラス運用で、2020年は14%、2021年の23.3%と共に2桁のリターンであった。最新の運用資産残高(AUM)は2022年9月末時点で約286億米ドルに上り、Googleを運営するAlphabet Inc.の最大の株式保有者としても著名である。
投資戦略は、積極的な株主活動、いわゆる"物言う株主"と呼ばれるアクティビストで、企業の株式を一定数保有し、経営改善や事業提案など、株主の権利を最大限活用することで、経営陣へ積極的に働きかける戦略である。TCIファンド・マネジメントは取引所、金融機関や鉄道、電力などの公共セクターに対する投資を得意としており、世界中の企業へ積極的な提案を行ってきた。これまでの事例では、ドイツの証券取引所やオランダの大手金融機関、米国やカナダの鉄道会社への活動が著名で、また、日本ではJ-POWER(電源開発株式会社)やJT(日本たばこ産業)への活動は大きく報道された。その手法は経営陣との「対話」による価値創造を理念としていて、近年はCO2排出量の抑制や環境に配慮した投資を行うことなどを求めていくと宣言している。
TCIファンド・マネジメントの旗艦ファンドは、The Children's Investment Master Fundで投資家に対して数年単位での長期的な資金投入を求めている。現在300を超える公的年金基金や機関投資家などの顧客が支持しており、堅調に資産運用残高(AUM)を集めている。社内に複数の投資チームが形成されているが、最終的な決定権はホーン自身に残されている。
アクティビストとしての活動は、慎重なファンダメンタルズ分析などに基づいて行われているが、他方でその時流を読む力も秀逸だと評価されている。保有銘柄は他のヘッジ・ファンドが行うような数千にも及ぶ銘柄に行われるのではなく、その時に関心を寄せている銘柄への集中的な資本投下や、近年であれば世界的なパンデミックといった事象に基づく関連株式へ行われており、一定期間で利益を上げて資本を引き上げる場合も少なくない。アクティビストとしての活動ばかりが目につきやすいが、長期保有をする銘柄、短期的な保有にとどまる銘柄などを独自の視点でブレンドして利益をあげ続ける、トップ・ヘッジ・ファンドである。
参考資料:
- TCIファンド・マネジメントhomepage:
Home | TCI (tcifund.com)
- US Securities and Exchange Commission date:
SEC FORM 13F-HR
- Investment Adviser Public Disclosure FORM ADV:
269954.pdf (sec.gov)
- Bloomberg article:
Top Hedge Funds 2021: TCI, DE Shaw, Citadel, Millenium - Bloomberg
記録的低迷から復活のチルドレンズ・ファンド、連勝記録12年に伸ばす - Bloomberg
- US News article:
5 of the Top Hedge Funds in 2022 | Investing | US News - Yahoo! finance article:
The TCI Fund With 18% Annual Returns Is Worth Following (yahoo.com)
TCI Fund Management: A 41% Gain in 2019 (yahoo.com)
(文責:客員アナリスト 鈴木)