<プライベート・エクイティ(PE)投資とワイン投資のおいしい共通点:ビンテージ・イヤーを見極め>
フランク・シナトラが歌った「It Was A Very Good Year(とても良い年でした)」という名曲があるが、プライベート・エクイティ(PE)投資にもワイン投資と共通するビンテージ・イヤーの「Very Good Year」がある。
ワイン用のブドウ収穫には当たり年を意味するビンテージ・イヤーという言葉が使われるが、PE投資でもビンテージ・イヤーという言葉を使い、投資資本が最初に流入した年を意味する。
当たり年に醸造されたワインは当初は安い価格で市場に流通するが、年月を経て、在庫数が減るに従い、価格が上昇して行き、数十年後には入手が困難な希少で非常に高価なビンテージ・ワインとして取引される。欧米など海外の富裕層の中には、自らワイナリーに赴き、大量に購入してワインセラーで長期間にわたり寝かせ熟成を楽しむほか、価格が上昇した後に、オークションへ出品するなど、投資先のひとつとの考え方がある。
同様に、PE投資の世界でも産業構造の変化や経済・政治・社会情勢、および景気サイクルの局面を分析して、売買のタイミングを計ることが重要だ。特に景気のボトムあるいはピークで発生するビンテージ・イヤーは、企業が過大評価または過小評価され、初期投資以降の収益に影響を与える可能性が高いことに留意が必要だ。
PEファンドは、未上場の新興企業へ投資し、企業価値を増大させた後、資金を回収・現金化するが、景気の波にうまく乗らないと大きな成功にはつながらない。たとえ将来が有望なベンチャー企業に投資しても、景気後退局面や政治環境などが逆風では、急成長が見込めるとは限らず、資金繰りに苦しむ中で時間を非効率に費やすことになりかねない。半面、景気、政治、産業構造の変化が順風であれば、消費・需要拡大の波に乗って想定を超えて急成長する場合もある。
<未公開企業の成長ステージ>
大和総研調査季報(2022年秋季号)の「転換期にあるプライベート・エクイティ市場」リポートによると、2011~2020年の各年をビンテージ・イヤーとするPEファンド(バイアウト・ファンドとグロース・エクスパンション・ファンド)とVC(ベンチャー・キャピタル)ファンドの内部収益率(IRR)の10年間平均はバイアウト・ファンドが17.4%、グロース・エクスパンション・ファンドが20.3%、VCファンドが17.8%だった。
PE投資のビンテージ・イヤーは、金融・経済・社会的な危機がきっかけとなることが多い。新型コロナ・ウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)を背景に2019年末以降のバイオ・テクノロジー/医薬品業界、2007~2008年の米国サブプライム住宅ローン危機と投資銀行リーマン・ブラザーズ破たん後のIT(情報通信技術)・デジタル産業、2000~2001年のインターネット・バブル崩壊とイスラム過激派による米国同時多発テロ事件以降の軍需・防衛産業といった、時代や人々の要請に応じた投資先への傾倒が目立つ。
米国パランティア・テクノロジーズ社は、時代の要請に応じた良い例だろう。同社は2001年911テロ事件が勃発した後の2004年に創業し、人工知能(AI)を使ったビッグ・データ解析プラットフォームを展開する。米国防総省(ペンタゴン)、中央情報局(CIA)、連邦捜査局(FBI)など、政府機関・非営利組織やバンク・オブ・アメリカ、ドイツ銀行、アクサなど大手民間企業を主要な顧客としている。サイバーセキュリティ、社内不正監視、マネーロンダリング防止などリスク対策や、安全な車・航空機開発からテロ対策、新薬発見など、業務効率化という組織のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を後押しする、先進的プラットフォームを構築する世界的なソフトウエア企業に成長した。
ただ米国政府の軍事・諜報機関などへの依存度が高いビジネス・モデルには、当然ながら時の政権の意向によって命運が左右されるという明確なリスクを持つ。
米国では、報道機関、企業、経営者・創業者など著名人が、支持政党を明言することが多い。自らの信条・立場を明確にすることは、自由で公正な国民の評価につながるからだ。しかし4年毎の大統領選により、政府組織・官僚などが全て交代するため、支持政党の政権が成立するかによって大きな影響を受ける。民主党は、メディア、エンターテインメント・映画、IT・ハイテク、金融・サービス業界などを主な支持母体としており、共和党は、資源・鉱工業、軍需・防衛、医療、農業、法曹界などを主な支持母体としているとの見方が一般的だ。
政治的なリスクを軽減するため、パランティア社も、米政府以外の顧客拡大を模索し、日本など海外事業の展開に注力している。
リスク管理の上で、PE投資のビンテージ・イヤーを分散させるには、業種が集中しやすいプライマリー(新規)・ファンドより、セカンダリー(流通)・ファンドの方が容易だろう。中長期的な事業展望を持ち、投資案件だけではなく、時間軸にも分散投資を行いつつ、ビンテージ・ワインのように時間がもたらす熟成により円熟味が増すのを待つのもPE投資の醍醐味なのかもしれない。
参考文献:
What Is a Vintage Year for a Company or Product? (investopedia.com)
転換期にあるプライベート・エクイティ市場 (dir.co.jp)
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