2022年に最も輝かしい実績を残したヘッジ・ファンド、シタデルは30年以上にわたって着実に運用資産や事業規模を拡大、実績を積み重ね、複数の賞を受賞するに至った米国の最大手ヘッジ・ファンドのひとつである。
シタデル(創業当初は別の社名)は、創業者であるケネス・C・グリフィンが雑誌フォーブスの転換社債型新株予約権付社債(Convertible Bond:CB)の取引が開始されるという記事に触発されて、1990年にハーバード大学の寮の部屋で取引を開始し、大きな利益を出したことが始まりであった。グリフィンはLCHインベストメンツが発表したヘッジ・ファンド・マネジャー・ランキングで、2021年はブリッジウォーターのレイ・ダリオに次ぐ2位に躍進するまでになり、2022年についに1位となり、ヘッジ・ファンド業界でだれもが注目するトップ・ランナーの1人となった。
新型コロナ・ウイルスのパンデミック(世界的大流行)やシカゴの犯罪率の高さなどを背景に、2022年にグローバル本社をシカゴからフロリダ州マイアミへ移転。世界7か国16拠点にオフィスを構え、2600人以上の従業員が働いている。創業以来、たびたび"Best Workplace"としてランキングされるなど、業績以外の面での受賞も多い。従業員の報酬も高いが要求も高いことで有名。経営破たん後のメリルリンチから優秀な人材を引き抜いたり、エンロンが破たんした際には同社の人材を雇い入れてエネルギー投資を始めたりしたように、危機に瀕した金融機関やライバルなどから新しい人材や事業の取り込みを積極的に行って、規模を拡大、または安定化させてきたというグリフィンの意欲的な姿勢が会社をトップ・ランナーにまで押し上げてきた。
2023年2月時点でフォームADVに提出されている運用資産残高(AUM)は約253億米ドル。旗艦ファンドのひとつは2021年の運用成績がプラス26%、2022年はプラス38.1%と非常に高く、ブルームバーグは世界のマルチ・ストラテジー・ヘッジ・ファンドの中で"最も優れたリターンを出したファンド"だと報じた。2022年にInstitutional Investorが発表した"Hedge Fund Award"ではマルチ・ストラテジー・ヘッジ・ファンド部門で最上位となった。大賞を受賞したのは実に5度目で、世界でもトップ・クラスのヘッジ・ファンドであると言える。
投資戦略は、マルチ・ストラテジー。創業当初は当時のヘッジ・ファンド業界で主流の戦略でもあった、いわゆる転換社債アービトラージ(正式には転換社債型新株予約権付社債、Convertible Bond:CBを用いた裁定手法)や債券アービトラージ戦略が主な運用戦略で、大きな利益を生んだ。しかし、運用資産規模が拡大するに従って戦略も多様化し、株式、債券、クレジット、グローバル・マクロ戦略、クオンツ運用など多くのチームを形成、マルチ・ストラテジー・ファンドへと運用戦略を変化させた。
多くのファンドを運営しているが、その中で旗艦ファンドは2つ。
- Citadel Wellington:
米国の投資家向け。1990年運用開始。
2022年の運用成績はプラス38.1%。ヘッジ・ファンドの中で史上最大の単年度利益を計上(LCHインベストメンツの推定)。
運用開始以来、マイナスを記録した年は数えるほどしかなく、安定したリターンをあげている。 - Citadel Kensington Global Strategies:
米国以外の投資家向け。1995年運用開始。
運用成績は2008年に大きく損失を出したが、その後20%台を記録するまでに回復。300を超える投資家が資金を預けている。
特筆すべきは、グリフィンは現在、ヘッジ・ファンドであるシタデルを運営しているだけでなく、シタデル・セキュリティーズという米国株式市場におけるマーケット・メイカーを経営しているということである。2006年から業務に注力し、大きな取引シェアを得るまでに成長した。ニューヨーク証券取引所の最大のマーケット・メイカーで2021年、2022年と過去最高益を更新し続けている。2022年8月末には東京にオフィスを開設し、日本の投資家向けにサービスを開始すると発表した。
時に"墓場のダンサー(Grave Dancer)"と揶揄(やゆ)されるほど、金融危機などの度にそれを好機と捉え、M&A(買収・合併)などにより事業を拡大したり、新規分野への参入を果たしたりと積極的に事業拡大を行うことでトップ・ヘッジ・ファンドへ成長させてきたグリフィンが、今後も長期にわたって、業界のトップ・ランナーでいられるのか、成長を続けることができるのか注目に値するヘッジ・ファンドである。
参考資料:
- Citadel ホームページ:
Citadel - Leading Investors in the World's Financial Markets
- US Securities and Exchange Commission date:
EDGAR Filing Documents for 0000950123-22-006403 (sec.gov)
- Investment Adviser Public Disclosure FORM ADV:
148826.pdf (sec.gov)
crd_iapd_Brochure.aspx (sec.gov)
- Financial Times article:
Citadel and TCI drive top 20 hedge fund managers to bumper $65bn gains | Financial Times (ft.com)
- Institutional Investor article:
The Rich List: The 21st Annual Ranking of the Highest-Earning Hedge Fund Managers | Institutional Investor
These Are the Winners of the 2022 Hedge Fund Industry Awards | Institutional Investor
- Fortune Ranking:
Citadel | Fortune
- Linkedin Ranking:
Top Companies 2022: The 50 best workplaces to grow your career in the U.S. (linkedin.com)
- Bloomberg記事:
シタデルのマルチ戦略ファンド、21年のリターン26%-競合抑えトップ - Bloomberg
シタデル・セキュリティーズ、21年収入は過去最高の70億ドル-関係者 - Bloomberg
シタデル・セキュリティーズ、東京オフィス開設-米国債など扱い - Bloomberg
ヘッジファンド、「大きいことはいいことだ」-今年は規模で明暗 - Bloomberg
シタデル、ヘッジファンドなど過去最高収入-マーケットメーク1兆円 - Bloomberg
シタデル、22年ヘッジファンド利益番付で首位-過去最高の160億ドル - Bloomberg
- CNBC article:
Citadel's flagship hedge fund rallies 7% in April, brings 2022 returns to nearly 13% (cnbc.com)
Citadel's flagship hedge fund climbs 4% during June's market rout (cnbc.com)
- Forbs article:
Citadel's $16 Billion Gain In 2022 Makes Ken Griffin's Flagship The Top-Earning Hedge Fund Ever (forbes.com)
LCH Investments: Ken Griffin's Citadel Named World's Top-Earning Hedge Fund (forbesmiddleeast.com)
- 野村資本市場研究所 レポート:
野村資本市場研究所|米国金融市場の構造変化の中で存在感を増すシタデル(PDF) (nicmr.com)
(文責:客員アナリスト 鈴木)