厳選コラム・ニュース

  • 厳選コラム・ニュース
  • 日本の大学基金運用、海外の有名大学に追随へ―ハーバード大学やイェール大学ではオルタナティブ(代替)投資を積極化―
2021/07/09
今注目の投資戦略
日本の大学基金運用、海外の有名大学に追随へ―ハーバード大学やイェール大学ではオルタナティブ(代替)投資を積極化―

<日本の大学基金運用、海外の有名大学に追随へ>

日本政府は10兆円規模の大学ファンド(基金)を創設する計画だ。海外の大学と比べて日本の大学の資金力が乏しく、研究基盤がぜい弱化していることを問題視しており、大学ファンドの運用益を活用し、将来の研究基盤への長期・安定投資を実行する。日本の大学も、世界の一流大学に資産運用の手法を学び、追随する流れになっている。

文部科学省が2021年3月に公表した資料によると、国立研究開発法人である科学技術振興機構(JST)に大学ファンドを設置。50年の時限で、将来的に大学がそれぞれ自らの資金で基金運用するための仕組みを導入する見込み。

当初は、政府出資0.5兆円(2020年度第3次補正予算)と財政投融資4兆円(2021年度財投計画額)を合わせた4.5兆円からスタートし、大学改革の制度設計などを踏まえつつ、早期に10兆円規模の運用元本を形成する予定。2021年度中の運用開始を目指している。

内閣府と文科省は、「世界と伍する研究大学専門調査会」や「大学ファンド資金運用ワーキンググループ」などを開き、関連法案の審議に向け、新たな法的枠組みを検討している。

大学基金の規模(2017、2019年)に関しては、海外ではハーバード大学が約4.5兆円、イェール大学が約3.3兆円、スタンフォード大学が約3.1兆円、ケンブリッジ大学が約1.0兆円に上る。一方で、日本国内では慶応義塾大学が約730億円、早稲田大学が約300億円、東京大学が約150億円にとどまった。

米国のハーバード大学やイェール大学の運用戦略では近年、高いリターン(投資収益)を求めて、ヘッジ・ファンドなどオルタナティブ投資の比重が高まっているようだ。

イェール大学の基金運用戦略(2020年6月期)
運用残高312億米ドル、収益率6.8%

ヘッジ・ファンド・コラム画像(大学基金).png

<ハーバード大学などではヘッジ・ファンドなどオルタナティブ投資を積極化>

ちなみに米国屈指のハーバード大学と言えば、元大統領のバラク・オバマ氏、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏、フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏、日本の第126代天皇后である雅子妃など、海外・国内の著名人が通った名門私立大学として有名だ。また驚異の運用実績を誇る優良機関投資家でもある。

ハーバード大学基金を運用するハーバード・マネジメント・カンパニー(HMC)は1974年に設立。卒業生、有名人、企業などからの寄付金、大学運営資金、金融資産などを運用し、将来世代の教育・研究費を維持・拡大していくための財政的な資源を確保することを使命としている。中長期的なリターンを目指し、リスクを管理し、分散投資を行っている。

設立以来の年率リターンは、約11%に上り、これまで合計で約350億ドルを大学に拠出してきた。現在は年間運営費の3分の1以上を賄っている。2020年6月30日までの2020会計年度のリターンは7.3%、20億ドルを拠出し、運用残高は419億ドルに達した。

内訳では、上場株式のアロケーション(割合)が18.9%を占め、リターンは12.2%、プライベート・エクイティ(未公開株)のアロケーションが23.0%でリターンが11.6%。ヘッジ・ファンドのアロケーションは36.4%、リターンは7.9%。債券・物価連動債のアロケーションは5.1%、リターンは8.2%だった。

一方で、不動産(アロケーションが7.1%、リターンがマイナス0.5%)、天然資源・商品(アロケーションが2.6%、リターンがマイナス6.2%)、その他の現物資産(アロケーションが1.3%、リターンがマイナス17.5%)は、リターンがマイナスだった。現金・その他のアロケーションは5.6%。

ハーバード大学の基金運用戦略(2020年6月期)

資産クラス アロケーション(割合) リターン(投資収益)
上場株式 18.9 12.2
未公開株 23.0 11.6
ヘッジ・ファンド 36.4 7.9
不動産 7.1 ▲0.5
天然資源・商品 2.6 ▲6.2
債券・物価連動債 5.1 8.2
その他実物資産 1.3 ▲17.5
現金・その他 5.6 --
基金合計 100.0 7.3

ハーバード大学は、組織のリストラクチャリング(再構築)を推進し、一部運用を外部委託している中で、ポートフォリオの組成・組み替えにおいて、プライベート・エクイティ、ヘッジ・ファンドなどオルタナティブ投資を増やす半面、流動性の低い資産を減らしていく方針だ。

また天然資源・商品部門をソラム・パートナーズ社として分離・独立させ、同時に50%の株を第3者の投資家に売却し、農業・食品業界への投資を行うことを明らかにしている。

2020年春には、温室効果ガス(GHG)排出量を2050年までにネットゼロとすることを公約し、政府によるパリ協定への一段のコミットメント支持、温室効果ガス削減技術の開発、他の投資・運用業界の協力などを求めて、目標の達成を目指している。

HMC最高経営責任者(CEO)のN.P.ナーベカー氏は、「まだ実現すべき課題は残っているものの、初期の兆候は勇気づけられるものであり、進むべき方向性に自信を持ち続けるものだ」と説明した。

同氏は、2016年12月にHMCに加わる前は、コロンビア大学、ペンシルベニア大学で投資戦略責任者を担当。その前は、J.P.モルガンで株式デリバティブ(金融派生商品)のマネージングディレクターを務めた。

専門家に任せて資産運用を図り、投資収益を目指す海外の一流大学が実施している方針は、日本の大学にとっても役立つ戦略と言えるだろう。

参考文献:
資料03 大学ファンドの創設について (mext.go.jp)
世界と伍する研究大学専門調査会 第4回 (cao.go.jp)
Home | Harvard Management Company
Investment return of 6.8% brings Yale endowment value to $31.2 billion | YaleNews

【広告審査番号:AD2021015】

関連コンテンツ