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2024/11/12
今注目の投資戦略
為替変動リスク回避で海外ヘッジ・ファンドに円建て新設の動き

<為替変動リスク回避で海外ヘッジ・ファンドに円建て新設の動き>

円が将来にわたり常に安全通貨であるかは分からない。日本人にとっては、保有している金融商品・資産は、大半が円建てという方が多いだろう。だが、日本社会の少子高齢化が進み、先行き経済成長が低下するリスクなどを考慮すれば、ドル建て資産に目を向けるのも選択肢の1つだろう。

一般的にドル建ての金融商品・資産は、円高の時に購入し、円安の時に売却すれば、為替差益を享受でき、全体のリターン(投資収益)が大きくなる。しかし最近のドル・円相場のトレンドを踏まえると、国内投資家にとっては、依然、タイミングを読みにくいと言えるかもしれない。

このため海外大手マルチ戦略ヘッジ・ファンドの中には、新たに為替ヘッジ付きの円建て商品を設定する動きが見られる。最低投資金額が大きく一括で投資する場合に、為替変動リスクを回避し、円ベースでの長期安定的運用パフォーマンスを目指す。為替ヘッジは、先物取引であらかじめ将来交換する為替レートを予約することにより、為替差損を抑制する仕組みとなっている。

世界中の国・地域の為替、債券、株式、商品、指数など広範な投資先を対象に、各種戦略を組み合わせて、金融市場の動向に対応して機動的に投資先の配分を変更することにより安定的なリターンを目指す運用手法がマルチ戦略ファンドだ。

 <日米の金利差縮小観測を背景に想定外の円高・ドル安リスクを警戒>

2024年半ばになると、日本と米国の金融政策は大きな転換期を迎え、今後、日米金利差の縮小観測などを背景に、中長期的には円高・ドル安が進む可能性があるとの見方が強まっている。さらに為替の影響を抑制するヘッジ・コストは現在、高水準だが、今後は金利差縮小に伴って低減していくとも予想される。長期の運用実績を誇り、過激な競争を生き延びてきた大手ヘッジ・ファンドへの新規または追加の長期投資を考えている投資家は、中長期的な円高・ドル安リスクへ備える必要がある。

世界的なインフレ傾向にある中、日本でも当面はインフレが持続すると見込まれている。このため日本銀行は、量的・質的緩和を解除し、金融政策の正常化を進める出口戦略を採っている。20243月の金融政策決定会合では約17年ぶりの利上げを実施した。マイナス金利政策(マイナス0.1%)を解除し、無担保コール翌日物金利を00.1%程度に引き上げた。イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)も廃止した。さらに7月会合では、追加利上げを決定し、政策金利を0.25%程度に引き上げた。同時に2025年度末までの長期国債買い入れの減額計画も決めた。

一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は、金融緩和へと舵を切っている。9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、フェデラル・ファンド金利誘導目標を0.5%ポイント引き下げ、4.755.0%とすることを決めた。利下げは約4年半ぶりだった。さらに11月には0.25%ポイントの追加利下げを実施し、政策金利を4.54.75%に決定した。利下げは2会合連続。

市場では、日米の中銀が、数年かけて経済・物価の情勢に最も適した中立金利水準を探っていくとの見方が強く、日銀は追加利上げ、FRBは追加利下げが見込まれている。

<円キャリー取引の巻き戻しを誘発する可能性>

従来は、低金利の円で資金を調達し、ドルなどの高金利通貨で運用する円キャリー取引の妙味が高く人気だった。だが投資家は、その巻き戻しが起きるリスクを意識している。円高が進行すると、円で借りた資金を返済する際にコストが上昇し、損失を被る可能性がある。また日本の金利が上昇すると、円での借入コストが増加し、利益が減少するほか、海外の高金利資産の金利が低下してリターンが減少する可能性もある。円キャリー取引のポジションを解消して、巻き戻しが発生すれば、円が急速に買い戻されて円高が進行する可能性がある。

これまで拡大基調だった日米の金利差にも変化の兆しが現れている。日米国債2年物利回り格差は2023年の最大5%程度から今年に入って縮小傾向に転じている。日米金利差と米ドル調達コストなどの需給要因を併せたドル・円相場のヘッジ・コストは、2023年に付けた約6%程度から、2024年はピークアウトする基調に転じている。

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ドル・円相場は20247月に一時1ドル=162円前後と、198612月以来、約38年ぶりの円安・ドル高水準を付けた。その後は若干円高・ドル安に振れ、足元では150円台で推移している。過去には、20113月の東日本大震災、同年10月のギリシャ危機を経て、円は史上最高値75円台を記録した場面があった。

ヘッジ・ファンド・コラム用画像(為替ヘッジ).PNG

足元でドル建て金融商品・資産のポートフォリオを構築するには、リターンだけでなく、為替動向を見極めることも重要な要因となるだろう。今後、円安メリットよりも円高リスクを意識したり、為替ヘッジ・コスト低下を見込んでいる日本の投資家にとって、新設の為替ヘッジ付き円建て海外マルチ戦略ヘッジ・ファンドは、長期投資の観点から、将来の円高・ドル安リスクを抑制する好機を狙う投資商品と言えるだろう。

参考文献:
資産は円だけで大丈夫?外貨建て資産・現物資産を考える | みずほ証券
第57回「日米金利差とドル円レート」 知るほどなるほどマーケット | 三井住友信託銀行株式会社
ドル円レート長期推移1971年~(チャートと変動要因の解説で歴史を確認) - ファイナンシャルスター

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