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2025/03/31
今注目の投資戦略
トランプ政権で加速する米国から他資産への投資先の多極化

<トランプ政権で加速する米国から他資産への投資先の多極化>

「漁師は潮を見る」。漁師は、気象状況や潮の流れを見て漁場を決める。投資も同様で金融市場や相場の方向性を見て、大勢を見極めて判断を下す必要があるとの相場格言だ。

2025年に第2次トランプ政権が発足して以降、米国の関税・貿易政策を巡る混乱が世界経済の懸念材料との見方が強まり、金融市場では3月半ばにリスク回避の動きが広がった。保護主義の台頭を背景に、米中の覇権争いが再び激化する兆しも浮上している。世界経済が混沌とする中、運用資金は、これまでの米国資産への一極集中からその他の資産クラスへ多極化の流れが加速している。

RBCブルーベイ・アセット・マネジメントのマーク・ダウディング債券部門最高投資責任者(CIO)は313日、「グローバル経済と金融市場の展望」と題して都内で講演し、トランプ政策による米ドル相場への影響は強弱入り混じるとしながらも、「アセット・アロケーションの観点から言えば、米国離れの動きが出ている。中央銀行の準備高に占める米ドル比率が低下している」と説明し、その他の通貨・債券・現金などへの分散が加速する可能性を挙げた。

また、「米国株から欧州株へのローテーションも起きている。特にテスラ株などが売られた。欧州の金融社債は引き続き割安だ。投資家からの強い需要が追い風となっており、投資適格(IG)社債では、ユーロ建てが米ドル建てをアウトパフォームしている」とも述べた。

従来の戦略が通用しなくなる、潮目が変わる時期には、新たに有望な投資先を模索しながら、慎重かつ機敏な投資姿勢が求められるだろう。

<今後の運用戦略は?>

今後の運用戦略として、RBCブルーベイ・アセット・マネジメントは、長期的には債務水準の高止まりを背景に、米国と欧州のイールドカーブ(利回り曲線)はスティープ(傾斜)化に向かうと予想しながらも、「最近の金利低下を踏まえ、金利デュレーションはショート(短期)を選好」している。一段と米金利が低下すれば、ショート(売り建て)・ポジションの投資機会を見込んでいる。

さらに日本国債のショート(売り建て)・ポジションを解消し、割安な日本円に強気の見方を示した。このほか、レバノンやベネズエラなど一部の新興市場(EM)ディストレスト債など幅広い投資機会を見込んでいる。

<米中の関税合戦は景気下押しリスク、最先端技術での主導権争いが政治問題化>

トランプ米政権による不公正貿易の是正を目指した関税発動により、国際的な相互関税の脅威から貿易戦争リスクが意識され、景況感の悪化につながっている。

特に米中の通商政策は、人工知能(AI)・半導体や電気自動車(EV)などの最先端技術で主導権を握る企業を巻き込んだ政治的な対立に発展するリスクが警戒されている。「米政権から中国は敵国視されている。米国は、中国が台頭してリーダーシップをとることを制限し、中国とロシアを引き離したいとの意図がある。中国が米国の最新テクノロジーに接することを避けたいとの意図もある」(RBCブルーベイ・アセット・マネジメントのダウディング氏)という。

中国のスタートアップDeepSeekが高性能AIモデル開発に成功したことを受け、米国の半導体関連の株価は乱高下した。ベストセラー「ブラック・スワン」の著者ナシーム・ニコラス・タレブ氏は、1月の米AI向け半導体大手エヌビディア株の急落について、AI主導の株価上昇に盲目的に飛び乗った投資家がこれから直面する事態の「ほんの序章に過ぎない」と警告した。

また、EVを巡る米中の戦いも続いている。2024年に中国EVメーカーBYDのバッテリーEV年間販売台数は176万台に達し、米テスラの179万台に肉薄している。同年の売上高はBYD7770億元(1070億ドル)とテスラの977億ドルを上回った。

BYDとテスラの株価の推移.PNG

AI・半導体・EVなどハイテク分野での優位性を巡る米中の争いは、保護主義を助長させ、2025年の世界経済の見通しにも暗雲を漂わせている。恐怖指数と言われるシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー指数(VIX)は310日、昨年8月以来の30に迫り、リスク資産が売りを浴び、質への逃避の動きとなった。

VIX指数.png

<多国間の協力強化が焦点>

内閣府が2月に発表した2024年度の国内外の経済に関する報告書「日本経済レポート」によると、先行きを展望する上で、特に重要な要因の1つとして海外景気の下振れリスクを挙げ、「米国と中国との貿易摩擦の再燃が生じれば、日本企業の輸出や生産などに影響を及ぼす可能性がある」と懸念を示した。またトランプ大統領が掲げる各種政策により、「米国の物価動向や為替、金利、株価などに影響が生じうる」と指摘した。第1次トランプ政権時に起きた米中の制裁関税の応酬が日本の景気下押し要因になったとも振り返った。

一方、国際通貨基金(IMF)が1月に公表した「世界経済見通し改訂版」では、2025年の見通しについて、世界成長はまちまちで、かつ不確実と指摘し、「ベースラインシナリオの中期的なリスクは下方に傾いている。短期的な見通しはリスクがまちまちな点が特徴的」と分析した。特に米国における新たな関税や金利上昇への期待を背景に、「経済政策の不確実性が、貿易と財政面を中心に急激に高まっている」と説明した。

世界経済に関しては、「一連の新たな関税という形で保護主義的な政策が強まると、貿易摩擦が悪化し、投資が減少し、市場の効率性が低下し、貿易の流れが歪められ、再びサプライチェーンが混乱する恐れがある」と指摘した。

その上で、「成長は短期的にも中期的にも低下する可能性があり、程度は国によって異なる」と予測し、「リスクを管理するには、インフレ率と実体経済のトレードオフのバランスを取り、バッファーを再構築するほか、構造改革の推進や多国間ルール・協力の強化を通じて中期的な成長見通しを引き上げることに、政策の焦点を当てなければならない」と強調した。

米中の超大国に挟まれて身動きが取れない苦境に陥るのか。あるいは多極主義の世界の中で無益な争いを避け、国際社会との共存を目指す選択肢を模索するのか。投資戦略を考慮するに当たり、金融商品、通貨、国・地域、期間、業種、銘柄など、選別力が一段と問われることになりそうだ。

参照:
【随時更新】トランプ氏が大統領令に続々署名 一目で分かる政策一覧 [トランプ再来] [アメリカ大統領選挙2024][トランプ再来][アメリカ大統領選挙]:朝日新聞
中国が即座に報復発表、トランプ政権は10%関税発動-電話会談迫る - Bloomberg
中国、アメリカへの追加関税を発動 石炭やLNGに最大15% - 日本経済新聞
DeepSeek巡るエヌビディア急落は「序章」-「ブラック・スワン」著者 - Bloomberg
中国BYD、EV年間販売台数でテスラに迫る-勢い止まらず - Bloomberg
BYDの売上高が1000億ドルの大台突破、テスラ抜く-躍進鮮明に - Bloomberg
世界経済見通し2025年1月改訂版
中国、10日に米農産物への報復関税発動へー最大15%賦課 - Bloomberg
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米政府、ディープシーク利用を禁止検討 情報悪用を懸念 WSJ報道 | 毎日新聞


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